加速する配送員の不足や新たな生活様式への対応などの課題に、街全体で取り組む事例がある。神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」だ。新たにスタートした取り組みとは、小型配送ロボットを使った住宅街向け配送サービスの先進的な実証実験だ。取り組みに携わる関係者に話を聞いた。
先進技術を受け入れる生きた実証フィールド
パナソニックが中心となり2014年にグランドオープンした「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下FSST)」。神奈川県藤沢市の同社工場跡地に広がるこのスマートタウンには、約19ヘクタールの敷地におよそ2000人の住民が暮らす。
約2000人の住民が暮らすFSST
サスティナブルの名の通り、FSSTは“100年つづく街”をタウンコンセプトに掲げている。持続的に街を発展させるため、独自のマネジメント会社である「Fujisawa SSTマネジメント」を設立し、次世代型の自治組織「Fujisawa SST コミッティ」とビジョンを共有しながら住民主体の街づくりを推進。さらに地元の藤沢市をはじめ、コンセプトに賛同した全18団体が「Fujisawa SST協議会」を組織して街の活性化を図る。
Fujisawa SST協議会には教育、医療、物流、エネルギー、住宅、不動産、メディアなど各方面のパートナー企業が参加。2014年の街びらき以降、FSSTではこれらのパートナーと連携して“生きたフィールド”として数々のPoC(概念実証)を行なってきた。Fujisawa SSTマネジメント代表とFujisawa SST協議会事務局長を兼務するパナソニックの荒川剛氏は「毎年のように新技術、新規事業、マーケティングなどの実証を展開しています。住民の方々も先進的な取り組みに対して非常に理解が深く、協力を得られやすいのがFSSTの特徴です」と話す。
パナソニック株式会社ビジネスソリューション本部SST推進総括
兼 Fujisawa SSTマネジメント株式会社 代表取締役社長
荒川 剛 氏
その一環として2020年から継続的に進めているのが、パナソニック製の自動配送ロボットによる住宅街向け配送サービスの実証実験だ。サービスには、かねてよりパナソニックが研究開発を進めてきた自律走行ロボットや、自社構内でのライドシェアサービスで培ってきたノウハウを応用した。
自動配送ロボットの実証実験の様子
2020年11月〜12月にかけてのフェーズ1では公道での走行実証を実施。そこから得た実証データを分析して改良を加え、2021年3月5日からはタウン内の薬局から患者の自宅まで医薬品を配送する実証を開始した。配送ロボットに着目した理由を、荒川氏は次のように語る。
「藤沢市を含むエリアが神奈川県の『さがみロボット産業特区』に指定されており、自治体を含めてロボット活用に積極的だという背景があります。そこにコロナ禍が重なり、直接的な対面を避け、モノの受け渡しを非接触で済ませたいとの要望が出てきました。一方ECやデリバリーの需要が急増したにもかかわらず、配送業界は慢性的な人手不足に悩んでいる。こうしたニューノーマルならではの課題を解決するためのソリューションとして、自動配送ロボットのトライを受け入れました」(荒川氏)
早い段階での自動配送ロボットを活用した配送の実現は国も成長戦略実行計画に明記しており、パナソニックも経済産業省が主催する「自動配送ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」に参画している。今回の研究・実証活動の一部ではNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助を受けるなど、社会的な動きも後押しした。こうした追い風に加え、チャレンジをいとわないFSSTならではの風土がうまく合致した。
Fujisawa SST コミッティに自動配送ロボットの実証を打診したところ、「ぜひやってほしい」との声が多数寄せられた。
「ロボットに限らず、これまでの実証でもネガティブな反応はありませんでした。決して一方的に押しつけるようなトライアルはせず、街の課題を共同で話し合うことが大前提です。Fujisawa SSTマネジメントはハブであり、FSST自体が住民のニーズと企業のシーズをマッチングするプラットフォームだと捉えています」(荒川氏)
街をサスティナブルに発展させていくためのFSSTの体制図。Fujisawa SSTマネジメントが全体のハブとなる
住宅街の公道で自動配送ロボットが走るのは、日本では今回が初の事例だ。ボディは小型な作りになっており、側面には配送品を入れるボックスを備えている。センサーとカメラにより周囲の障害物を避けながら自動走行するようプログラムされているが、自動走行が難しい場合には管制センターから遠隔操作に切り替え、“安全・安心”を最優先とした。
「これまでロボットは身近な存在ではありませんでした。それが実際に街の中を自動で走る様子を見て、住民の方々も親しみが湧いてきたようです。皆さんに関心を持っていただくことで人とロボットが共存する意識が芽生え、新たなフィードバックをいただける。コミュニティの活性化にも一役買っていると思います」(荒川氏)「地域におけるモノの移動を変えるきっかけ」