クリーンな水とエネルギーを世界へ――三野禎男(日立造船取締役社長兼COO)【佐藤優の頂上対決】

三野禎男氏

 社名は「日立造船」だが、戦後に日立グループから離れ、2002年には造船事業を分離しているため、名が体を表していない会社である。いまの主力は、ごみ焼却発電プラントと水処理施設を中心とした環境ビジネスだ。斜陽の本業を切った関西の名門企業は、いかに事業転換を図ったのか。  ***

佐藤 会社案内などを拝見しますと、日立造船はとてもユニークな会社なのですね。いまは日立グループではありませんし、船舶も作っていない。 三野 そうですね。戦前は日立グループでしたが、戦後に離れました。また造船は祖業ですが、2002年に分離し、いまその部門はJFEホールディングス(旧・日本鋼管)、IHI(旧・石川島播磨重工業)の船舶部門と合併して「ジャパン マリンユナイテッド」になっています。 佐藤 現在、展開されている事業は非常に幅広く、発電プラントから水処理施設、橋梁や水門などのインフラ事業、トンネルを掘る掘進機、滅菌装置に全固体リチウムイオン電池の製造と、実にさまざまです。 三野 事業が広がりすぎないように、選択していかなければとは思っています。 佐藤 かつては飲料事業もされていました。杜仲茶を出しておられましたね。 三野 造船業が苦境にある時、生き残るために事業化しました。その後、2003年に小林製薬へ譲渡しています。また少し知られたものでは「旅の窓口」という宿泊予約サイトもありました。マイトリップ・ネットという会社で運営していたのですが、これも2003年に楽天に譲渡しました。 佐藤 ネットビジネスとしては非常に早い時期です。社内にさまざまなアイデアがあり、それをどんどん事業化していく社風があるのですね。 三野 弊社は1881(明治14)年に創業した大阪鉄工所から始まりますが、創業者の英国人E・H・ハンターはとても挑戦意欲に満ちた実業家だったそうです。その精神が受け継がれているのか、社内には挑戦することが奨励される雰囲気はありますね。もっとも、うまくいったものもありますが、それ以上にうまくいかなかったものも多いんですよ。 佐藤 経営者としては、いつまでやるか、どこで止めるかは非常に難しい判断になります。 三野 どちらかというと、弊社は撤退の判断が遅いといいますか、最後まで悪あがきしてでも粘る傾向があります(笑)。 佐藤 それは組んでいるパートナーから見ると、信頼度が高いということです。 三野 その意味では、信頼に応えて最後までやりきる会社と言えるかもしれません。信頼は収益に勝るとも劣らない大切なところだと思っています。 佐藤 さまざまな事業の中で、いまコア事業に位置づけられているのは、まずエネルギーですね。 三野 そうです。エネルギー事業にもいろいろありますが、中心は廃棄物焼却発電プラントです。 佐藤 ごみを燃やして発電する。 三野 日本では1965年に弊社が初めて大阪市西淀川区に建設しました。ただ当初は、いかに衛生的に焼却処理するかに主眼が置かれていたのですね。日本のごみ処理行政自体、衛生処理、それも継続的に安定した処理を行うにはどうすればいいかを中心に考えられていました。そこに発電を持ち込んだ。 佐藤 これは独自の技術なのですか。 三野 当時、近代的なごみの連続焼却及び発電施設を建設するため、いろいろ調査したようです。いくつかの候補からスイスにあるフォンロール社(現・日立造船イノバ社)の技術を導入しました。 佐藤 最初から発電とセットなのですね。 三野 ええ。このプラントは非常に画期的で、50年以上昔にも拘わらず23%くらいの発電効率を持っていました。これはいまの焼却プラントと比較しても遜色のない数字です。ただ、ごみ焼却による電力は不安定だろうということで、電力会社からはあまり買っていただけなかったようです。 佐藤 時代が早すぎたわけですね。 三野 そうですね。当時は発電より衛生処理であり、次に公害問題が課題となりました。1970年11月に開かれた臨時国会は「公害国会」と呼ばれ、公害に関する法令が整備されます。煤塵(ばいじん)や窒素酸化物、塩化水素などの排出基準が決まった。私どももその時代は、発電の効率化より、公害に対する技術開発を積み重ねていました。ですから、発電部分が注目されるのはずっと後のことです。 佐藤 それがいまでは環境事業として先頭を走っている。 三野 現在は廃棄物の持つエネルギーを最大化する高効率発電に取り組んでいます。また近年、大きな災害が増えていますから、防災の拠点としての役割も担えるのではないかと考えています。 佐藤 というのは?  三野 ごみさえあれば、そこで発電できます。ですから地震や水害など災害が起きた場合、避難所として使えます。また、その一帯に電力を供給することも可能です。今後は、衛生処理、発電にもう一つ、防災拠点という役割を付け加えることができるかもしれない。

クリーンな水とエネルギーを世界へ――三野禎男(日立造船取締役社長兼COO)

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