音楽やアート、カルチャーを通じてリスナーとSDGsを共有する。 放送局の枠を超えたFM802の挑戦。

関西で圧倒的なリスナーの支持を受けるFM802とFM COCOLOという2つのFMラジオ放送局を持つ株式会社FM802。関西地区の聴取率NO.1とNO.2を誇るFM放送はもちろんのこと、リスナーや地域を巻き込んだ多種多様なイベントを通じてSDGsの取り組みを実践しながら、多くの人々に広く啓蒙している。

これらFM802の従来のリソースを最大限に活用するだけでなく、人、企業、アーティストとのパートナーシップからさらなる可能性を探ろうと先陣を切ってチャレンジする人物がいる。株式会社FM802の社長、奥井宏さんだ。FM802が続けてきた多彩な活動の意義や根底に流れるスピリット、そしてこれからの挑戦について伺った。

仕事で携わったFM802のイベントを通じて、エコや社会貢献が自分ゴト化

音楽が好きだった学生時代を経て、関西に本社を置く広告代理店に就職した奥井さん。入社5年目にFM802が開局してからは、スポンサー業務などで足繁くFM802に通った。3年ほどたったある日、FM802で中途入社の募集があることを知り迷わず応募、転職。営業部に配属された。

「入社後はさまざまなイベントの立ち上げに携わり、スポンサード営業に奔走しました。生まれたばかりの放送局として、新しい文化を取り込んだイベントを次々と開始。そのうちのひとつが1993年に始まった“FUNKY MARKET”です。アメリカのガレージセールのリユース文化をFM802がいち早く取り入れ、大型フリーマーケットイベントとして開催しました。私個人としては、このイベントがエコに触れ、考えるきっかけになりました。」

さらに、同イベントでは象印マホービンが2006年から「出張給茶スポット」を設置。マイボトルを持参した来場者に無料でお茶を提供する取り組みを始めた。

「私自身にとっても、その当時では当たり前になっていたペットボトルでの水分補給を見直すきっかけになりました。このようなさまざまなFM802のイベントやスポンサー様の取り組みを通じて、今でいうSDGsやエコがどんどんと自分ゴト化されていきました。これは、私だけでなく他のスタッフも同様だと思います」

奥井さんが言うとおりFM802が行うイベントでは、SDGsの概念が世に提唱される約20年以上も前から、SDGs17の目標のいずれかに当てはまる取り組みが多く実施されており、そのほとんどが長寿イベントだ。だから、長い年月をかけて、携わる社員、DJ、ミュージシャン、そして来場するリスナーにエコや社会貢献、地域活動などへの考え方が自然と浸透していったと言えるのかもしれない。

何十年も続いている数々のイベントは、意図せずともSDGsに当てはまっている

例えば、奥井さんが1999年の立ち上げ時に関わった「MINAMI WHEEL」もそうだ。大阪市・アメリカ村周辺の“ミナミ”と呼ばれる若者カルチャー発信地の周辺において、各ライブハウスで3日間、400組以上ものアーティストが繰り広げる一大ショーケースライブを実施するイベントだ。

「“MINAMI WHEEL”は、アメリカの大規模フェスティバル“SXSW(South by Southwest)”に着想を得てスタートしたイベントです。“SXSW”は、単なる音楽フェスではなくアーティストとレコード会社などの契約が生まれる見本市のような側面があり、日本でもそのような場をアーティストや音楽業界に提供したいという思い、ライブハウスという音楽発信の場を活性化させたいという思いから始まりました。最初はまったく人が集まらず赤字状態。それでも、意義がある取り組みだと信じて続けてきたことで、今や20年以上続くFM802を代表するイベントになりました。」

イベント参加者にはライブハウスをハシゴして新しい才能・音楽と出会う機会を提供し、地域に対しては経済活動の活性化や観光客の誘致に貢献、アーティストには音楽活動の場を広く提供。さらには、イベント終了後に出演アーティストや参加者、FM802のDJやスタッフ、学生、ライブハウスのスタッフらで周辺のゴミ拾いも実施する。これらの取り組みはSDGs17の目標の「8:働きがいも経済成長も」、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「11:住み続けられるまちづくりを」、「17:パートナーシップで目標を達成しよう」に当てはまる。

「自分たちが信じて続けてきたことが、結果的にSDGsにつながっているという感覚です。ゴミ拾いも“MINAMI WHEEL”が開始して何年か経った頃に誰かがゴミ拾いもしたらどうだろうと言いだして、それいいねと賛同が集まって自然発生的に生まれた取り組み。何か環境にいいことをしよう、何かを達成しようというよりも、活動を行う中でよいと思うことを取り入れ、続けてきたことが何らかの社会貢献につながっているのかもしれません。」

SDGsにつながるイベントや取り組みの対象は音楽に留まらない。アーティストを発掘、育成するアートプロジェクト「digmeout」(ディグミーアウト)、日本を含むアジア10カ国から約300組の次世代アーティストが集結するアートイベント「UNKNOWN ASIA」など、アート系のアーティストにも広く活躍の場を提供している。これらの取り組みもまたSDGs17の目標のうち、いくつもの項目に当てはまる。

このようなFM802の取り組みやイベントにより発掘され、活躍の場を広げたアーティストは音楽分野でもアート分野でも枚挙に暇がない。社会に与えるインパクトとしてはもちろん、SDGsに貢献しているイベントが非常に多いのが特徴だ。

FM802、FM COCOLO両局でSDGsをテーマにした番組、コーナーを放送

FM802、FM COCOLOのラジオ放送を通じては、番組やコーナー、それに付随するSNSなどを通じて積極的にSDGsの発信を行っている。

「1995年に開局したFM COCOLOは関西エリアに住んでいる外国語生活者に情報を届けるため、日本初の外国語放送として開局しました。2012年にFM802が放送免許を引き継いでからも、朝5時、平日の夜20時は外国語放送の番組を各国ネイティブのDJでオンエアしたり、バイリンガルで進行する番組を続けるなど、グローバルな視点で多様なローカルリスナーに向けて音楽や情報を発信しています。また、グローバルとローカルはつながっている、グローカルなマインドで世界の問題を自分ゴトとしての一歩から考えようという“Whole Earth”というコンセプトを掲げています。このようなルーツや姿勢そのものがSDGsと共鳴するもので、SDGsの情報発信に関しては非常に親和性の高い放送局だと感じています。」

奥井さんの言葉どおり、FM COCOLOでは前出のコンセプトそのものを体現した番組「Whole Earth RADIO」を放送。「SDGs~2020年代のWhole Earthを考える~」、「コロナウイルスと文化の現場」、「食べる、SDGs」など、ローカル、グローバル問わずさまざまなトピックを“Whole Earth”やSDGsの視点から取り上げている。感度の高い大人のリスナーが多いFM COCOLOならではのアプローチだ。

一方、FM802では「身近なことから未来のために土台(生活)を耕していこう」というコンセプトのコーナー「コマキ手帖」を番組「EVENING TAP」内に設けている。

「FM802は16歳~34歳がターゲットの音楽中心メディアです。このターゲットにきちんと情報を届けるために、難しくなりすぎないよう心がけています。“コマキ手帖”では、DJの土井コマキが懸け橋となって身近な取り組みを中心に、未来への取り組みを共有するというスタンスで発信しています。例えば、SDGsにつながる生産方式についてチョコレートソムリエの方から教わったり、NPO法人の方からヘアドネーションについて聞いたりと、若者にとっても身近に感じられる話題からSDGsを発信しています。また、SNSの発信力が強いこともFM802の強み。SDGs特番では共通ハッシュタグ “#802SDGs” で多くのリスナーが自らSDGsについて発信してくださいました。」

FM802の番組「SATURDAY AMUSIC ISLANDS」内のコーナー「ZOJIRUSHI GREEN GARDEN」では、マイボトルを啓蒙したり、リスナーに「あなたが実践しているエコ教えてください!」と呼びかけ、身近なエコをシェアし、考えるきっかけづくりを行っている。このように、リスナーと共有し学び合うという姿勢がどの番組やコーナーでも貫かれている。

よい取り組みをしている地元企業は積極的に取り上げる

それぞれの放送局の特徴やターゲットに即した情報発信でSDGsをリスナーに共有する同社。関西の各企業のSDGsに関連した取り組みも積極的に伝えるようにしている。

「たとえスポンサーでなくても関西エリアで社会的意義のある取り組みをしている企業や商品、サービスがあれば取り上げます。関西に根づく放送局としての使命ですし、なにより番組として面白いコンテンツになると考えているからです。リスナーからも“関西でこんな風に頑張っている企業があるのなら、次はここから買ってみる”といった声をいただくことも多く、響いていると感じます。」

オリジナルデザインのマイボトルをDJ、社員、協力会社のスタッフに配布

リスナーに放送、イベントを通じてSDGs情報を発信する母体である同社自身にはどのような土壌があるのだろうか。

「関連会社を含む社員50名のうち部門を横断した13名がSDGsチームに属していて、それぞれの視点を生かしあい、共有しあいながら社内全体のSDGsの在り方や施策を議論、実施しています。今年の6月にスタートしたのがマイボトルの配布です。UNKNOWN ASIAに出展したアーティスト2名にデザインしてもらったオリジナルの2種類のボトルを準備し、社員、DJはもちろん、関連会社、協力会社のスタッフの方々にもアナウンスし、希望する方全員に好きなデザインのボトルを差し上げています。社内にはウォーターサーバーを設置していて、自由に給水が可能。この取り組みにより、ペットボトルの使用量を減らすことはもちろん、紙コップもなくしていこうと考えています。」

ボトルのデザインでアーティストを起用し、協力会社のスタッフにもボトルを配布する……。自社で完結するのではなく、周囲をどんどんポジティブな取り組みに巻き込んでいく姿勢が、FM802らしい。他にも、オフィス内の照明をLED照明に変えたり、社内全体にFM802にゆかりのあるアーティストが描いたアートが飾られたり、木のぬくもりを感じられる打ち合わせスペースを設置したりと、オフィス環境の面でもSDGsを具現化している。

全社員のうち実に4分の1ものスタッフがSDGsチームに属していると、社員全体の意識も自ずと底上げされる。

「常にニュースや社会の動向を追いかけ知識や情報をアップデートしながら、ラジオの向こう側にいる多様なリスナーにしっかりと届けるために“今この問題を我々のラジオではどのように発信すべきか”と議論を重ねています。そのような日々の作業を通じて、SDGsに対する関心や問題意識は否が応でも深まっていくと感じています。ただ、どんなに自分たちの知識が深まったとしても伝えるときには難しくならないよう、リスナーに考えるきっかけを共有できるような発信を心がけています。」

大切にしているのは、一方的に伝えるのではなく「共有」するというスタンス。情報発信の当事者となるDJはリスナーと学び合い、そこで得たアイデアを日々の生活に取り入れて、また発信する。そんな好循環が生まれているのだ。

コロナ禍でも音楽を発信する場を守り抜く

FM802は日本で最も音楽イベントを開催している放送局。だからこそ、新型コロナウイルス流行の影響は甚大だった。2021年の6月5日に万博記念公園で開催予定だった音楽イベント「MEET THE WORLD BEAT 2021」。5月末で解除されるはずだった緊急事態宣言が6月以降も延長されることが政府からアナウンスされ、開催直前に大阪城ホールに場所を移し「無観客ライブ配信」という形態をとることを決定した。

「中止を決定するのではなく、時間がない中でも無観客ライブへの切り替えにスタッフが奔走したのは“ラジオで聴いた新しい音楽やアーティストに改めて出会うきっかけとなるライブ”という30年以上続くコンセプトどおり、アーティストがリスナーに向けてパフォーマンする場を守り抜きたかったから。結果、心配していたアーティスト側からの出演キャンセルもなく、リスナーからも“こんな状況の中でも危険を回避しながら開催してくれてありがとう”との声が思いのほか多く届きました。」

大変な状況だからこそ、パートナーシップを組むことで新たなカルチャーを届けたい

コロナ禍だからこそ新たに生まれたチャレンジもある。

「今年4月からはFM COCOLOで京都のフラワーショップとタイアップしたフラワーサブスクリプションサービス“HANA+co+COLO.(ハナココロ)”をスタートしました。季節やその時々のテーマに応じたお花が、同テーマの音楽の情報とともに定期的にご自宅に届くサービスです。このサービスは、コロナ禍で人々の心に余裕がなくなっている中、音楽と花を掛け合わせることで生活に潤いや癒しを届けたいとの思いから生まれたものです。」

この他、今秋からはフードコーディネーターと組んで“体によくて美味しいもの”を発信する企画がスタート。また、気持ちのいいインテリアやアートを音楽とともにご自宅やオフィスに届けるサービスなど、さまざまなアイデアについても活発に議論されています。これらの新しい取り組みの先陣を切っているのが、他でもない奥井さんだという。

「心がすさみそうになったときほど、音楽やアート、インテリア、花などのカルチャーが人に力を与えてくれると考えています。コロナ禍で大変なことも多いこんな時期だからこそ、自分たちにできることがあるということを社員に伝えたいので、自ら先頭に立ってさまざまな企画を立てたり実行したりしています。また、自分たちのリソースだけではなくさまざまな人や企業とパートナーシップを組むことで、できることの幅は無限に広がるということも体現していきたいと思っています。」

FM放送やイベントを通じて音楽や文化を発信し続けてきたFM802。関西を基点としたさまざまな人や企業、アーティストと今まで以上に多様なパートナーシップを組むことで、新しいカルチャーやSDGsのカタチを届けてくれそうだ。

奥井 宏(おくい ひろし)
大学卒業後入社した広告代理店でスポンサー業務に従事し、FM802とも関わりを持つ。
1993年、開局5年目の株式会社FM802に入社。営業部に配属、大阪本社で営業を担当する。
その後東京支社に転勤となり、広く東阪のクライアント・広告代理店との仕事に従事。
「春のACCESS!キャンペーン」、「REQUESTAGE」、
「MINAMI WHEEL」の立ち上げにスポンサー営業として携わる。
2007年営業局 東京支社長兼東京支社営業部長、
2013年 取締役営業部長、2017年 常務取締役を経て、
2020年6月に代表取締役社長に就任。

*プロフィール、本文等、内容については2021年7月取材時のものとなります。

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